身体が重い。重力で全身がベッドに沈んでいるのがはっきりとわかる。
いや、今この瞬間にも沈んでいっているのかもしれない。

ふっと、目の前が暗くなる。

僕は意識を失ってしまったのか、それすらもわからない。
それとも目を瞑ってしまったのか、それすらも考えたくない。

怠い。重い。苦しい。

それは圧し掛かるような圧迫感とは違った、吸い込まれるような、
深い深い闇の底へ落ちてゆくような孤独感と解放感だった。


いやな気温の高さだ。水気を含んだ生温かい大気が身体に纏わりついてくるようなしつこい暑さ。
点けっぱなしの扇風機から送り出されるぬるい空気が頬を撫でる。
なにかが、頭をよぎった。
ひとしずくの涙が閉じた瞼から枕へと落ちる。
ぼんやりと見えるオレンジの光は僕を包み込むようで、それが余計に腹立たしかった。
心の内を見透かしたようなその優しげな光が、譬えようもなく憎らしくなったのだ。

それは前にも見たことのある景色だった。
既視感というよりはすっかり忘れていた約束事を思い出したような、そんな感覚に近かった。
僕がいて、少し離れたところにその人がいる。暗くて顔がよく見えない。なぜかよくわからないが周囲が煩くて何を言っているのか聞きとることもできない。
もう少し近くに寄ろうと思っても身体を動かすこともできない。
何かを伝え終え僕のほうを見なおしたその顔はなんとも爽快で悲しげな顔をしていた。
その顔は、僕の知っているその人のどんな顔よりも美しかった
僕は何の反応も返すことはできなかった。
ただ、そこから離れてゆく後姿を見つめつづけることしかできなかったのだ
それからその人は、とうとう僕のもとを離れた。
いや、もともと僕のもとにいる気などなかったし、その頃にも特に意識して僕のもとにいるのだとも思ってなどいなかったのかもしれない。
しかしそれでも、後ろ姿しか見ることのなくなったその事実に、僕はまた打ちのめされることになるのだ。

そこまで思い出して、僕はまた泣いた。
今度ははっきりと、涙が頬を伝うのがわかった。
涙は温かく、そしてすぐに冷たくなった。