僕が今お世話になっている下宿には晩御飯を食べるところがあって。僕は勝手に食堂と呼んでいる。といっても普通の家庭のリビング位の広さなんだけれど。
 そこではたいていラジオが入っていて、チャンネルはNHKだ。
 今日もいつものようにご飯を食べに降りて(ちなみに食堂は一階玄関横で僕の部屋は三階にある)、本日の晩餐カレーライスをよそっているとそのラジオからなんとも能天気な歌が流れた。能天気と切り捨てるのは失礼な話かもしれないが、よく言えばNHKらしい、明るく陽気なメロディーが子供の朗らかな可愛らしい声で歌われていた。
 席について福神漬を添えたあたりでふと気づいた。
「俺この子がなんて言ってるかわからん」
 その疑問にはラジオの方で答えてくれて、どうやらハイチの言葉で歌われているらしい。歌詞の内容は「子供にご飯をあげよう。元気な子供になるように」とかそんな感じの内容で。
 どうなんだろうか、と単純に思ってしまった。
 ワンクリック募金とか千羽鶴の話とか、応援するのはいいんだろうしそういう気持ちは持ってて悪いことはないのだろうけど、僕は正直そう言った行為にはっきり言って嘆息していた。
 たとえば自分の実家が地震に遭って大変なときにぬくぬくと平穏な日常を享受している見ず知らずの人間から「大変そうですね、でもがんばって」とか言われたり、よくわからない気の抜けた歌を毎日ラジオで流されたりしたら、たぶん僕なら耐えられない。
 苦しくて困っているのに、できないから困っているのにそんな無責任なことを言われたら。そしてその無責任な人たちはその行為で「自分は良いことをした」と本気で思いこんでいたら。
 僕は怒りで目眩がするだろう。
 では今の僕になにができるのか。なにもしていない僕よりはましではないのか。
 僕はそうは思わない。
 少なくとも、何もしていないのに「なにかしてあげたんだ」と“無自覚に”自分の善行を信頼する人より、自分にはなにもできないと自覚している人間の方がましだと思う。

 今の僕に何ができるのか。
 しかしなにもしていない今の僕は決してほめられた人間ではない。
 それも確かに自覚している。