第一章
「幸せなんてない。でしょ? 言いたいことはわかってるよ。知ってる」
僕はこの子の身長の割にはハスキーな声が好きだ。
重たくがさついた低いそれだけの声ではなくて、柔らかく沁みいるような温かい声が、彼女の声が好きだ。
彼女は僕に謂う。同じことを何度も謂う。
彼女は同じことを何度も繰り返している事を自覚している。
僕は何度も何度も彼女の話を聞く。僕は何度も何度も聴いても理解出来ない。
彼女は僕に謂う。同じことを何度も謂う。僕は喜んで聞く。
彼女は僕に謂う。同じことを何度も謂う。僕は嬉しい。
僕は同じ話を何度も聞く。彼女の言葉を何度も聞く。彼女のいとおしい声を何度も聞く。
僕が不安になる。繰り返すことが嫌になってはいないかと不安になる。
彼女は僕に笑いかける。彼女は僕に呆れた顔をせず僕と笑う。彼女の笑顔に僕も笑う。
僕は安心する。彼女は笑顔で僕を受け入れてくれている。出来の悪い僕を笑顔で赦し受け入れてくれる。
僕は、そして僕と彼女は、幸せなのかもしれない